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柔道部創立125周年にあたり、森柔道部長、渡邊柔友会会長を始め関係の皆様、そしてまた先輩の皆様、現役諸君、本当におめでとうございます。また、輝かしい歴史をこれまで築いてこられました、石川先生を始めとする歴代部長、また監督、師範、コーチの皆様、さらには惜しみない支援を送られました当時の先輩の皆様、さらには当時の歴代部員の皆様、このご努力と研鑚と、そしてそのすばらしい成果に敬意を表する次第であります。 ご承知のように、慶應義塾の体育会は39部ございますけれども、柔道部はその筆頭の部といたしまして、陸の王者たる雄としてその地位を保ってこられました。体育会は110年を今年で迎えますが、125年ということで15年の長があります。しかし、125年前といいますと、西南の役の頃でございまして、その後の日本近代史は日清・日露の戦争、欧州大戦、さらには第二次世界大戦、さまざまなる苦難の道を歩み、そして今日の繁栄を見たのであります。同様に、慶應義塾体育会柔道部におかれましても、必ずしも平坦な道だけではありませんでした。その最たるものは、敗戦とともに日本は占領され、昭和20年の11月6日、「武道に関する取扱い」というGHQ指令によって柔道、剣道、弓術、長刀、これらを学校で教育するということを禁じられたことです。先輩諸氏は、当時をよくご存知だと存じますが、綱町その他の道場の使用を禁止され、体育会から離れざるをえませんでした。しかしその間、たとえば三田署、皇宮警察、さらには飯塚師範の至剛館、これらによりまして、臥薪嘗胆、一日も休むことなく稽古を続けられたのでございます。いわば、『ウェーランド経済書』で我々が知っています福沢先生の故事、それを思い起こすような出来事でありました。 その翌年、はや21年の8月には柔友会会長金沢氏のリードによって、当時のOB、現役の皆さんが、連名で学校柔道復活についての嘆願書をGHQに提出します。何度も何度も、繰り返し行われます。昭和23年には、石丸体育会理事、さらには塾長、これらの方々の連名によって、また嘆願書を出された。そういう、いわば赤穂浪士におけるお家復興のような、大石蔵之助にも似た非常に気の長い努力によって、これは赤穂浪士と違い成功しまして、昭和25年の9月に学校における柔道の教育が復活するわけであります。直ちに10月13日、慶應義塾体育会柔道部は体育会に復帰し、以後、石川先生のお言葉による第2次の黄金時代を、昭和20年、30年代を中心として築かれてきたのであります。 このような歴史を振り返ってみますと、そのときの先輩がおっしゃったように、柔道ほど学校教育に適したものはない、と言っても過言ではないと思われます。と申しますのは、心身の鍛練、スポーツマンシップの涵養ということが基本にございますが、たとえば、柔道の受身を考えてみましても、まず初めに倒れることから訓練する。そして徹底的にそれを身につけることによって、初めてどのような鋭い技にも耐えることができる。すなわち、心置きなく技を競い合うことができるわけであります。 それからまた、明治15年に既に確立した講道館柔道というものを、直ちに慶応義塾が取り入れました。嘉納師範のつくられました柔道といいますのは、柔術の技を厳選し、スポーツとして、どんな小さな子も、さらには大先輩でも大丈夫なように、安全というものにまず配慮し、もちろん怪我はございますけれども、そうした科学的、近代的な性格を持っています。さらにまた、乱取稽古によって相手を投げたときに、必ず相手の袖から手を離してはならない、むしろ引き寄せるということを最初から訓練なさっておられます。そういうことから、極めて相手の立場を考えた、ジェントルマンシップに基づくスポーツと言うことができましょう。そういう意味で、福沢先生の精神というものを最も体現したスポーツとも言えます。慶應義塾体育会柔道部はそういう意味で、福沢先生の精神とそしてまた柔の心と、これを兼ね備えて現在に至っているわけであります。 ここ数年、毎年、綱町の道場におかれまして、柔道部は柔道祭を開催されておられます。水谷先輩の世代から、幼稚舎の1年生に至るまで、70年位におよぶ世代を越えた方たちが同じ道場で稽古をし、そして先輩が後輩に教えていらっしゃる。非常に麗しい姿であります。そしてまたこれは、福沢先生の藩学の精神を受け継ぎ、実践し、そしてまたその伝統というものを自ずと体現させていくという非常にすばらしい機会だと思います。 今日いる現役の諸君というのは、21世紀の半ばにおいて、ちょうど今の先輩諸氏の上の方たちと同じ世代になります。そういう意味で、これからの50年というものは、先輩たちのご指導を受けながら、ぜひ現役諸君が中心となって、先ほど石川塾長のおっしゃいましたこれからの21世紀の体育会、そしてまた安西現塾長のおっしゃられた強い体育会、こういうものに向けて努力し、また輝かしい成果をもたらされるということを期待し、お祈りいたします。本当に今日はおめでとうございました。 記念式典のページへ戻る >>
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