慶應義塾體育会柔道部長 フィリップ・オステン

三田綱町道場へ参上する度に、道場の壁に掛けられた数々の名札には毎回心を惹かれます。これらの名札には歴代部員の氏名が記され、その中にはかなり黒ずんで判読が難しいものもあります。壁の上段を眺める度に、これらの名札がわれわれに何かを語りかけてくれようとしているように思えてなりません。これらの名札は塾柔道部の伝統と文化の一端を示唆しており、一種の「道しるべ」や「里程標」のようにも感じられます。部員一人ひとりが道場で厳しい稽古を重ねる中で、心と体が出来上がり、その先に自らの「道」が見えてきます。「道」とは、まさに自分が人生をどう生きるかという一人ひとりの生き方を求めるものだと思います。柔道部の先輩方は、長きにわたって、この道を極めようと努力を重ねてきました。従って、これらの名札にはたくさんの方の多様な道が内在しているといえます。

2023年度のチーム都倉の代も、さまざまな困難を乗り越えながら、自らの歩むべき道を模索し、部員の価値観が多様化する中、とりわけ主体性のある柔道の「道」を目指していたように思われます。すなわち、自らの目指す柔道を見据えながら、主体的に稽古と学業に取り組むことによって、自分たちに合った「柔道人生」が出来上がり、そしてその先にまた道が見えてきたのだと思います。どうか、柔道部で得た友人や先輩と後輩との交流を通して見つけ出した自分の「道」を卒業後も極め続けてほしいです。

このように、今年も大学柔道部から素晴らしい人材を社会に送ることができたのは、ひとえに、学生を常に献身的に支えてくださったOB・OGの先輩方ならびに師範・監督・コーチの先生方のご指導・ご鞭撻の賜物です。皆様の厚いご支援に心から感謝申し上げます。

そして、学生の新しい執行部・チーム藤井の諸君が、心新たに、これから大いに頑張ってくれると確信しています。部員一人ひとりが、慶應柔道の精神を自覚して、主体性をもって自らの歩むべき道をみつけ、そして、自分で自由に考え、その考えに従って行動し、そしてその行動に対して責任が取れる人、まさに「独立自尊の人」、すなわち「独立して生きる力」と「協力して生きる力」の双方を身に付けた先導者を目指して、いっそう活躍をしてほしいと思います。

 最後に、改めて、この度卒業を迎える部員諸君、卒業おめでとうございます。4年間の厳しい稽古、本当にご苦労さまでした。部活動と学業の両立を通じて、また、母校・慶應義塾の栄誉を担っての試合を通じて、慶應柔道の良き伝統を共有し、その上で生涯の仲間を得ることができたのではないかと信じています。卒業後は、ぜひ「柔友」になって後世の指導・支援をお願いしたいと思います。今後の益々の活躍を祈念しつつ、再び道場でお会いできる日を楽しみにしています。

オステン先生