平成6年に卒業致しました興津です。私は大学で柔道を始めたのですが、それでも塾体育会柔道部OBの端くれとして本業の傍らアフリカでの柔道やスポーツ支援に関心を寄せてきました。これまでスポーツ関連で取り組んできたことなどを少しご紹介させていただきます。
1.コンゴ民主共和国での柔道支援
(1) 柔道衣の贈与:
私は2012年に現地に赴任し日本人の知り合いと柔道の稽古を始めたことがきっかけでコンゴ人と柔道を始めました。首都キンシャサ市内には約200の柔道クラブがあり、競技人口は全国では推定約7,000人と言われます。しかし、「道場」と聞いて見に行くとサッカーコートの横の地面の上にテント布を敷いて柔道をしていたのに衝撃を受けました。
更には、柔道衣が足りないので上着を着回して稽古をしていました。このため、2015年1月に、同期の加納幸喜君の知り合いを通じて募ったところ118着の柔道衣を贈ることができました(半分は山下泰裕先生の柔道教育ソリダリティー様より)。これを契機に、日本帰国後も、こちらも同期の髙柳依正君の髙柳喜一商店様からも100着の道衣を頂くことができ、こちらも外務省経費で輸送することができました。いずれも同期の助力なくてはできなかったことであり、本当に感謝しております。
(2) 柔道スポーツ施設の建設:
キンシャサの競技環境は非常に劣悪で屋根のある道場はぼろぼろの2か所しかないことから新しい柔道場の建設ができないかと柔道連盟とともに奔走しました。JICAが警察官の訓練に協力していたことからそれとも関連づけ、結果、幸いにも日本の文化無償資金協力で柔道スポーツ施設の建設が決定致しました。2015年から足掛け8年、時間がかかりましたが、最近ようやく立派な施設が完工しました。今年には早速仏語圏アフリカの国際柔道大会が開催されると聞いております。
2.ブルキナファソでのスポーツ支援
(1) 野球・ベースボール5普及:
2020年から赴任しているブルキナファソはサハラ砂漠のやや下のサヘル乾燥地帯に位置する農業が盛んな実直な人々の国です。しかし、数年前から徐々にイスラム武装勢力の侵食を受けるようになり、北部・東部から、いまは西部や南部国境沿いでも、武装勢力が村々を襲撃し今では国民の1割近い約200万人が村を追われて避難民となっています。もともと宗教も民族も超えて平和に暮らしていたのですが、いまでは農民と牧畜民の対立も深まっています。2019年まではJICAの海外協力隊もいたのですが撤退し、いまやテロリスクランキングは世界4位となってしまいました。このような状況下で、かつて野球隊員が派遣されていたブルキナファソ野球連盟は避難民が多く逃げてきた村々で「ベースボール5」(ボール1つでできる手打ち野球)の普及を進めています。この活動をJICAとしても支援していたところ、読売ジャイアンツからお声掛けいただき、今年2月に「平和のための野球(Baseball for peace)」と題したオンライン教室を開催いただきました。因みに、中日ドラゴンズの小笠原慎之介投手もブルキナファソのために野球道具(1200点)を集めて送ってくださっています。柔道をしていた私が野球の協力をするというのも何ですが、このような形でスポーツを通じて少しでも平和につながるような活動をしております。
(2) 柔道の状況:
赴任してからいくつか柔道場を見て回りましたが、こちらは一応いずれも屋根のある柔道場でした。大会などは日本大使館が支援して建設された「武道場」で開催されています。柔道衣も日本大使館が中古100着ほど供与しています。3月には日本大使館が「武道の日」を開催し、合気道のデモンストレーション、空手の型や組手の試合の他、柔道の「日本大使杯」が行われました。私はこれまでコロナ感染防止もあり稽古は避けてきたのですが、また柔道をやってみたいと気持ちが高まりました。
3.終わりに
一般的にアフリカ人の身体能力は日本人と比べてパワー、動態視力などずば抜けていると感じます。しかし、練習環境やアフリカ風の指導法のせいか、柔道のレベル自体は私のレベルから見ても決して高いとはいえないと思います。ブルキナファソ人のスポーツヒーローといえば、私たちから見ればマイナーな室内男子三段跳び世界記録保持者のユーグ・ザンゴ氏(東京五輪銅メダル)、英国ログリフト(丸太担ぎ)世界チャンピオンのアイアン・ビビ氏などに限られています。彼らは海外で練習する環境を掴み、活躍の場を得ていますが、国民の半分を占める若者の多くは日々生きていくことがやっとであり、満足にスポーツに打ち込める環境にいる者は非常に少ないと思います。
スポーツは身心の健康とともに人々のつながりを育むもの、夢を与えるものであり、健全な社会に欠かせないものだと思います。私自身も慶応義塾体育会柔道部に籍を置かせていただき育てていただいたことで今の自分の基盤があると思っております。その後、英国、仏国、マラウイ、コンゴ民主共和国、ブルキナファソに柔道衣を持って行くことで人々とのつながりや自分の成長がありました。スポーツを通じて自信と誇り、生きる喜びを得ていくことは社会の活力にもつながると思っています。それが私がスポーツにこだわる理由です。
とはいえ、国際協力においては、長らくスポーツは海外協力隊によるスポーツ指導などに限られてきました。しかし、最近では南スーダンでの国体開催支援に見られるように民族融和そして平和のためにも有効であると言われ始め、JICAにおいても社会包摂と平和の促進のために「スポーツと開発」を活用していこうとする機運も高まっています。スポーツだけで社会を変えることは難しいですが、農業、教育、道路などの協力と合わせてスポーツも活用していくことで人々の融和と団結を促進する一助にはなるのではないか、と考えています。私は今後もアフリカのスポーツ支援を秘かなライフワークとして取り組んでいきたいと思っています。若い方などが海外に行かれる際には是非柔道衣をお持ち頂き現地の道場に飛び込んでみてください(もし、アフリカに来られたい方はご紹介しますのでご連絡下さい 笑)。きっと何かしら思わぬワクワクするような展開があるかと思います。