第8回慶應杯争奪柔道大会に寄せて

慶應義塾體育會柔道部
部長  森 征一

 慶應義塾の創立者である福澤諭吉先生は、日本の新しい時代を担う若者はゆたかな知識だけではなく健康な身体と健全な精神をもった「独立自尊の人」でなくてはならないと考えました。そして、そのような若者を育成するために、福澤先生は慶應義塾という学校を創設し、学校教育の中に日本ではじめてスポーツを取り入れたのです。福澤先生はスポーツのなかでも、とくに柔道が大好きだったこともあってか、柔道を学生に奨励しました。柔道部が体育会の中で1番目に創部されたのは、このためです。ですから慶應義塾は学校柔道のルーツ校なのです。

 慶應柔道の基本は、文武両道の精神です。しかし、最近、この学生柔道の精神が日本の学生柔道から失われかけているように思えてなりません。それは、学生柔道を愛する者にとって、とても辛いことです。学生柔道の精神を取り戻すためには、どのような方法があるのでしょうか。その方法はすぐには見つからないとしても、できることから一つ一つ実行することが学生柔道のルーツ校であるわが柔道部に課せられた責務であると考え、ここに慶應杯争奪柔道大会を開催することにしました。

 慶應杯の目的は、慶應義塾大学の柔道場で行われる、母校の栄誉を担っての高校対抗試合と塾柔道部員も参加して行われる稽古を通して、慶應柔道の精神を共有し、その上で仲間として柔道について語り合って、柔道がもっと好きになり、柔友になってもらうことにあります。

 柔道を通して深い友情の輪を広げて欲しい。これが慶應杯の目的です。しかし、深い友情が生まれるためには、真剣勝負がなければなりません。勝つために全力を尽くすことが大事なのです。力を尽くした勝負をして初めて、互いに認めあう、本当の友情が生まれるのです。

 柔道は戦いですから、勝つ人もいれば負ける人もいます。しかし、学校柔道では、結果はどちらでも良いのです。人は勝っては嬉しく思い、負けては悔しい思いをして成長していくのです。勝負を通して、自身をつけたり、また、相手を尊敬したり思い遣ったりすることが出来るようになるのです。柔道の良さはそこにあります。

 今日参加した諸君は将来どのような道に進もうと、慶應柔道場で出会い、得た友人は将来必ずや大きな財産となり、また、慶應柔道場での真剣勝負は生涯決して忘れることのない思い出となるでしょう。それは日本柔道の将来の発展に大いに役立つものと確信します。
 最後になりますが、今日は日頃稽古で鍛えた力を十分に発揮して、正々堂々と戦って欲しい。