福澤先生は、日本の新しい時代を担う若者は豊かな知識だけではなく健康な身体と健全な精神をもった「独立自尊の人」であることが肝要だと考え、そのために慶應義塾を創設しました。そして、そのような若者を育成するために、学校教育の中に日本ではじめてスポーツを取り入れたのです。周知のように、自身の息子に対してさえも、「体育を先にす」という教育方針を採用し、読書のみならず、心身の修養も殊のほか重要視していました。福澤先生はスポーツの中でも、とくに柔道が大好きだったこともあって、柔道を塾生に奨励しました。柔道部が体育会の中で一番目に創部されたのは、このためです。従って、慶應義塾は学校柔道のルーツ校なのであって、そして塾柔道部はもっとも福澤精神を反映しているともいえます。

このように創立された塾柔道部は、2年後の2027年に創部150周年という大きな節目を迎えます。現在(2024年度)の大学1・2年生および一貫校の生徒は、現役部員として、この記念すべき年を迎えることができると思います。多くの先輩の方々が、記念式典など各種行事の準備に既に着手してくださっています。そこで、柔道部が以前の大きな節目・創立125周年を迎えるに当たって採用した基本テーマ「125年、感謝…そして未来」が想起されます。すなわち、四半世紀前は、柔道を通して、感謝する気持ちを持って、輝かしい未来を創る独立自尊の人を育成しようと決意したのです。当時の柔道部の先輩方の見識の高さに敬意を表するとともに、現在この柔道部に身を置くわれわれは、2年後の大きな節目に向けて、次の基本となるスローガン、すなわち柔道部の未来を見据えたテーマについて、今後検討を重ねてゆくチャンスを与えられたように思います。慶應義塾の学問は、学術的スキルを身につけて出世するための学問ではないのと同様に、慶應柔道も、もっぱら試合に勝つための柔道ではないのです。より良い社会・国・世界を作るために、人が身につけるべき「独立自尊」の精神に裏打ちされた学問と柔道を目指して、この時代に合った形で柔道部の伝統をぜひ今後とも守り伝えていってほしいと思います。

最後になりますが、この度卒業を迎える部員諸君、卒業おめでとうございます。2024年度のチーム藤井は、惜しくも東京学生1部からの転落などさまざまな困難に直面しながらも、部員一人ひとりの高い意識で東京学生2部優勝を果たし、次へつなぐ土台を見事に敷いてくれました。4年間の部活動と学問との両立を通じて、また、母校・慶應義塾の栄誉を担っての試合を通じて、慶應柔道の良き伝統を共有し、その上で生涯の仲間を得ることができたのではないかと信じています。卒業後は、ぜひ「柔友」になって後世の指導・支援をお願いしたいと思います。今後の益々の活躍を祈念しつつ、再び道場でお会いできる日を楽しみにしています。

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